以下、テリー・ロイド氏のブログ記事の和訳

http://www.terrie.com/
先週の9月28日、日本人の元妻に子供達が誘拐されたアメリカ人の父親が、子供達を取り戻そうと福岡に渡り逮捕されてしまうという事件がCNN等のメディアから報道され始めた。このクリス・サボイという38歳の父親は、現在福岡で投獄されており、その間警察は何とかして彼を自白させようとしている。

…少なくともそれが状況だと推測は出来る。読者の多くはご存じだろうが、日本の警察は尋問のため容疑者を何カ月も拘束し、弁護士との接触も極力制限し、裁判所に提出する準備が整うまで粘る。日本の有罪率が99%強と非常に成績優秀なのはこのためだ(対して起訴率は極めて低い)。

クリス・サボイ氏は日本の文化について全く無知な純粋な外来人という訳ではない。彼は福岡でGNIという医薬品会社を企業し、2007年9月にはIPOでマザーズに上場する等、国内ビジネスにおいて優秀な成績を残している。日本語も達者で、博士号も取得しており、報道によると数年前には帰化日本国籍を得ているという。なので彼が投獄された事は驚きでありまたそうでもない。

友人が運転する車の中、元妻と、登校中の6歳と8歳の二人の子供に近づいた時、サボイ氏の頭の中でどんな思考が走っていたのかは本人にしか分からない。報道によると彼は車から飛び出し、子供達を車の中へと担ぎ込み福岡の米国大使館へ急行したという。しかし、これは大きなミスだった。彼は警備員に止められ大使館に立ち入る事が認められず、また元妻も警察に通報したため、警察も現場に急行しサボイ氏と子供達を捕獲した。

サボイ氏が何を考えていたのかは分からないが、彼が子供達を取り戻そうとした経緯については以下のような事が分かっている。

1.彼女は米国の離婚裁判において子供達を誘拐しないと主張したと記録されている。サボイ氏は子供達が誘拐されるのではないかと危惧していた。
2.彼女は子供達を誘拐し、また米国に連れ戻す気は毛頭なかった。ただの夏休みの旅行ではなかった事は、子供達が学校に通っていた事を見れば明白である。
3.前回のコメントから知った方々も多いと思うが(http://www.japaninc.com/child_abduction)、米国から誘拐された日米間の子供が、訴訟によって米国で親権を持つ親の下に連れ戻された例は一つもなく、和解されたケースが三つあるのみである。東京のアメリカ大使館で把握されている、こういった誘拐事件の数は102件に昇り、記録されていない件も含めれば過去10年で数千にも及ぶ可能性がある。
4.過去の件を見てみると、片親が子供を連れて何処かへ逃げ隠れする事は日本では犯罪と見なされていない。子供が誘拐犯である親に慣れてくれるまで隠れ続ける、という寸法だ。子供が誘拐犯の親と1年以上過ごせば、裁判長は「子供は安定した家庭の下にいるべきだ」とし、再び大きな家庭的変換を経験させるべきではないとして、その親に親権を委ねるのが定番となっている。少なくとも現在まではそういうパターンとなっている。
5.両親の共同親権は法律的には認められてはいるが、それが実際に与えられたというケースは法律的にも文化的にも例がない。つまり、もしほぼ必ず日本人である片親が親権を持ち、もう片方に子供を会わせたくないとしたら、取り残された親は二度と子供と会う事ができなくなる。

サボイ氏がこの法律的状況を知っていたと考えると、彼が子供達を取り返そうと先制攻撃を仕掛けたのは驚く話ではない。彼が全親権を得ている米国の判決は日本の家庭裁判では完全に無視される事は承知していて、日本が子供の誘拐犯達(非日本人含む)の聖域である事も知っていた。もし子供達と再び顔を会わせたいのなら、誘拐し返す事が唯一の方法だった。そうでないと、子供と離れ離れになってしまい、為す術もない何百もの親達に仲間入りしてしまう。19世紀的価値観に取り残された法廷制度の前では彼らは無力だ。

しかし興味深いのは、彼がこういった手段で子供を取り戻そうとした事で、今まで試験されていなかった説が明るみに出た事だ。その説の一つは、こうやって子供を誘拐し返してもいいのかという事だ。実際に警察はこういう「プチ誘拐」に対して見て見ぬフリをする事はよくある。数年前、似たような方法で中国系アメリカ人サムエル・ルイ氏が大阪で子供達を連れて行こうとした事がある。サボイ氏と同じく、彼もアメリカで全親権が認められていた。ルイ氏の誘拐は失敗に終わり、彼はそのまま警察に自首したが、警察は彼に1日ほど尋問した後、「もうこんな事しちゃダメだよ」と言わんばかりに大した刑罰も与えなかった。

しかし、子供を取り戻そうとする際に、他人への侵害や暴力が用いられる事は許されない。サボイ氏は、この国の警察は自由に人を逮捕できる事をよく知っていただろう。もし我々が彼と同じ立場にいて、こういった過激な手段に踏み込んだとしたら、現地の知人等の下で暫く隠れ住み、どうやって子供達を国外に連れ出すか模索したであろう。もし6ヶ月以上警察の目から逃れられたのなら、そのまま日本人として日本の裁判所に親権を要求しに行き、難を逃れる事も出来たかもしれない。

ここ数日の間に浮かび上がってきた、サボイ氏の離婚についての経緯は、彼に不利な印象を与えるものになってしまっている。その中で特筆すべき事は、彼は今現在再婚している女性と当時不倫関係にあったらしい事と、それと同時期に元妻と子供達を米国に連れてきているようだという事だ。このニュースを取り上げているサイトのコメントを見ると、彼が元妻を騙した可能性についての非難で溢れかえっている。

しかし、実際に何が起こったのかは憶測でしか語れず、事実が公表されない限り、サボイ氏の行動は全て論理に基づいたものだったと仮定するしかない。つまり、彼はもうじき離婚する妻と子供達を、父親と母親共に平等に権利が認められ、共同親権の概念が存在し実行される米国管轄に連れ込もうとした。彼のこの行いが残虐だ、詐欺的だ等といった点はまた別の話だ。もし日本で離婚していれば、ほぼ確実に子供達を手放す事になる事も、再び子供達に会えるかどうかは全て元妻の気まぐれによる事も知っていたに違いない。

これは日本の法廷が離婚した両親に対し平等に子供と会う権利を認めようとしない事が原因である。裁判官の殆どは(我々の過去のインタビューに基づく)、子供達を離婚による心のダメージから極力遠ざけるためにも、片親にのみ面倒を見させるべきだと言う。しかしこの伝統的な見方は一切の事実に基づいていない。日本国外の児童心理学者の多くは、たとえ両親が離婚していたとしても、子供は父親と母親両方に愛され育まれるべきだと結論している。子供達を片親から引き離してしまうと、子供は引き取られた親に偏ってしまい(Parental Alienation Syndrome: PAS、和訳:片親引き離し症候群)、成長してから失った片親に対してコンプレックスを抱くようになる。

PASの悪影響は別方向からも及ぶ。残された片親は除けものにされてしまうため、養育費を支払わなくなってしまい、大半であるシングルマザーの家庭は貧困と憂鬱に見舞われる。父親が家庭との繋がりを感じなくなってしまい、日本の家庭裁判には養育に関する判決を強制する権力が実質存在しないとなると、自分を親とも思わない子供のために養育費を払い続ける必要性をはたして感じ続けるだろうか?法律上は払うべきだとされてはいるが、それを法的に強制する手段がなければ、養育費を断ち切られない唯一の方法は、父親に親としての責任感を維持させる他にない。

この間違った状況は正すべきである。

日本の法廷がその手法も価値観も変えようという志を殆ど見せない現状を変えるには、外圧という政治的手段という手段しかない。残念ながらこれは長期的な作戦となってしまうが、賢いサボイ氏があのような失敗する確立の高い誘拐を何故試みたのか、その動機の説明にはなるかもしれない。

最後に、我々の見方としては、彼の行いは決して正しくはないが、今現在の法的状況を考えると、少なくとも理解はできる。状況が変わらない限り、同じような事件は今後も続くであろう。